スポーツベッティング

スポーツベッティングの法律問題|IR法案にてスポーツベットは合法化されるのか?

政府が推し進めている「統合型リゾート」(Integrated Resort、以下、IR)構想では、カジノ施設が設置されます。

そこではスポーツの勝敗で賭博をすることにネガティブなイメージを盛っている日本で「スポーツベッティング」は合法化されるのでしょうか?

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ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
結論から言ってしまうと、今のIR法案の中ではスポーツベッティングが合法化される見込みは少ないです。
ブクメちゃん
ブクメちゃん
えーなんで?カジノは良くてスポーツベッティングは駄目なの?
トウシくん
トウシくん
その理由をこれから話します

日本のIRのカジノで行なわれる賭博は、ルーレットやトランプなどが想定されています。

スポーツベッティングは欧米では盛んに行われていて、人気の合法賭博の1つです。

なぜ、日本政府は、IRカジノからスポーツベッティングを排除したのでしょうか。

ルーレットやトランプがOKで、スポーツ賭博をNGにする根拠は何なのでしょうか。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
なおこの記事では、カジノでの賭け事のことを、政府資料にならって「賭博」と表記します。

IRカジノで行なわれる賭博とは

政府はまだ、IRカジノで「この賭博を行ってよい」といったことを決めていません(2020年現在)。

首相官邸内につくられた「特定複合観光施設区域整備推進本部」の事務局は2017年12月15日に、パブリックコメント(意見募集)に対する回答を公表し、そのなかで次のように述べています。

「カジノ事業において実施が認められる行為の具体的な範囲については(中略)今後の制度化を通じて検討する」

 

したがって、IR誘致に立候補している地方自治体も、実際にIRを建設することになるIR事業者も「うちのIRでは、この賭博をやる予定です」とはアナウンスしていません。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
IRカジノで行なわれる賭博は、まだ決まっていないことになります。

ただ、この状態では国民も立候補自治体の住民も、IR賭博をイメージできません。

そこで政府は、さまざまな資料のなかで「海外のIRではこのような賭博が行われている」といった形で、具体的な賭博を紹介しています。

例えば、首相官邸のホームページで公開されている資料「カジノ施設・機器の規制及びカジノ事業活動の規制について」では、次のような賭博を紹介しています。

この資料から、政府はルーレット、トランプ、サイコロ、スロットといったグッズを使った賭博をイメージしていると推測できます。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
少なくとも、上記の賭博は日本のIRで禁止されなさそう、ということはできそうです。

この資料ではさらに、米ネバダ州のIRでは1,011種類、シンガポールでは47種類の賭博が認められていることを伝えています。IR事業者は、さまざまな賭博を提案できそうです。

「それなのに」スポーツ賭博のスポーツベッティングは、日本IRから外されることになります。

参考資料:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/kokumintekigiron/bessi1.pdf

なぜ政府は、ルーレット賭博やトランプ賭博はIRに適していて、スポーツベッティングはIRに適していない、と判断したのでしょうか。

この議論はとても複雑です。

そもそも賭博は、日本では違法行為です。

ルーレット賭博もトランプ賭博も、原則、実施すれば罰せられます。

つまり、「ルーレットとトランプは合法だからIRで行なってよく、スポーツベッティングは違法だからIRで実施できない」というわけではないのです。

日本の賭博罪

刑法第185条は、賭博をした者に50万円以下の罰金または科料を科す、と定めています(*4)。一時的な娯楽として物を賭けるぐらいの行為は罰せられませんが、明らかに賭博の場合、1回でも参加したら罰せられ、悪質な場合は懲役刑が科されます(*5)。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
ルーレット賭博もトランプ賭博もスポーツベッティングも、明らかに賭博なので、「このまま」では、どれもIRで実施できません。

IRで賭博を行うには、違法性を排除して、合法にしなければなりません。

刑法で違法であると定めた行為を、特殊な場合にのみ違法性を排除して合法とすることが、日本の法制度では可能なのです。

IRで賭博が合法化される

刑法第35条には、次のように書かれてあります。

<刑法第35条>

法令又は正当な業務による行為は、罰しない

この条文の意味は、例え刑法で「違法である」と定めた行為でもあっても、別に法律を定めてその行為を行うのであれば違法性をなくする(阻却する)ことができる、というものです。

そのため、「IRでカジノを建設して賭博を行う」ことを法律で定めれば、IRに限っては賭博の違法性が消えます。

IR推進法(正式名称、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)第2条には次のように書かれてあります。

 

<IR推進法第2条>

この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。

 

賭博をする場所としてのカジノ施設を容認しているので、IR(特定複合観光施設)で賭博ができるようになります。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
この法律論議から、制度上はIRでスポーツベッティングを行うことは違法ではない、ということがわかります。
トウシくん
トウシくん
「ルーレットとトランプはOK、スポーツベッティングはNG」という日本IRのルールは、別の規則によって定められているのです。

日本版IRからスポーツベッティングが外された背景

なぜ、財源的にも魅力的なスポーツベッティングを政府は認めないと決めたのでしょうか?

政府は、IRで認可する賭博の条件を、次のように規定しています。

条件A:IR事業者がその公正な実施を確保することができる行為

条件B:カジノ施設内でのみ実施される行為

条件C:偶然の勝負に関し参加者が賭けを行う「賭博」に該当する行為

条件D:国民の信頼や理解を確保でき、社会通念上妥当と認められるもの

この4条件に合致する賭博のみ、IRで行なうことができます。

スポーツベッティングの賭けの対象になるのは、試合です。

ジャパンちゃん
ジャパンちゃん
試合の公正性は、チームや選手たちが確保するので、IR事業者は関与できません。

したがって条件Aを満たしません

スポーツの試合はカジノ施設の外で行なわれるので、条件Bにも合致しません。

そして、スポーツの勝敗は、選手たちのスキルにかかっているので、つまり、偶然で勝負が決まるわけではないので、条件Cも満たしません

条件Dの解釈は難しいのですが、スポーツベッティングはこれもクリアできない可能性があります。

トウシくん
トウシくん
政府は、囲碁や将棋をIRの賭博の対象にすることは条件Dに反するとしています。

なぜなら囲碁、将棋は子供も楽しむことができる娯楽なので、これを賭けの対象にすることは社会通念上妥当とはいえないからです。

そのように考えると、スポーツもたくさんの子供が楽しむので、条件Dに反する可能性があるわけです。

シンガポールはスポーツベッティングを禁じている

シンガポールには「マリーナベイサンズ」と「リゾートワールドセントーサ」という2つのIRがありますが、どちらのカジノでもスポーツベッティングは行なわれていません。

それは、IRから「カジノ色」を極力減らそうとしているからです。

シンガポールは元々、カジノ施設の設置に消極的でした。

1980年代と2000年代にカジノ開設の機運が高まりましたが、いずれも立ち消えになりました。

しかし、アジア各国の都市間競争が激しさを増すなかで、カジノを含むIRをつくって存在感を示そうと考え、2011年に2つのIR(2つのカジノ)がオープンしました。

それでも、シンガポール人の「賭博=悪徳」と考える倫理観は健在で、カジノを最小限にしようとしています。

IRでのスポーツベッティングを禁じているシンガポールには、こうした背景があります。

日本人の倫理観はシンガポールの人たちの倫理観に近い

スポーツベッティングは、IRの花形イベントになるポテンシャルを持っているといえます。それなのになぜ、スポーツベッティングが日本のIRから外されたのでしょうか。

IRにおける賭博は、娯楽と考えることも、必要悪と考えることもできます。

IRは高いレベルの観光施設になることを目指します。その観点からすると、スポーツベッティングを大々的に開催して、IRを盛り上げたいものです。

しかしIRには、地域振興を担う役割もあります。

地域の「健全な」発展を考えるなら、賭博の規模を必要最小限にしたほうがよいでしょう。

そのように考えると、スポーツを賭けの対象にするのは「もってのほか」となります。

シンガポールのIRが完成したとき、当時の地域開発青少年スポーツ省担当大臣が「今後もカジノを悪徳と位置づける」と述べました。

スポーツベッティングをIRから外した日本人の「賭博感」は、シンガポールの人たちの倫理観に近いのかもしれません。

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